新たな骨代謝制御因子としてのGDD1 (堤聡)

堤 聡 (神戸大学大学院医学系研究科 生化学・分子生物学講座 分子薬理・薬理ゲノム学分野)

図1 GDD患者の臨床像 (顎骨病変による骨変形および四肢長管骨骨幹部皮質の内骨膜性肥厚を示す)


図2 日本人GDD家系 (患者を黒で示す)


図3 GDD1蛋白質の2次構造 (予測)


図4 成体マウス各臓器におけるGDD1遺伝子の相対的発現量 (骨格筋•骨組織で高い発現が確認された)


図5 抗GDD1抗体による成体マウス大腿骨の免疫組織染色 (成長板肥大軟骨細胞 (C), および外骨膜・内骨膜中の骨芽細胞 (D) で高い発現が確認された)


はじめに

  骨格系は, 軟骨細胞が営む骨新生による成長ののち, 破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返す活発な再構築により, その構造と強度を維持している. 近年, 遺伝性骨疾患の原因遺伝子の同定やそれに伴う新規遺伝子の発見が相次いでおり, 骨格形成および骨代謝の分子メカニズムが解き明かされつつある.
  顎骨骨幹異形成症 (OMIM166260, Gnathodiaphyseal dysplasia; 以下GDDと略す(1)) は, 1969年赤坂らによって最初に報告された常染色体優性の遺伝性骨疾患である. GDD患者は顕著な骨の脆弱性のため骨折を何度も繰り返すとともに, その顎骨に必発する骨性異形成症はしばしば感染をきたし難治性の顎骨骨髄炎を引き起こす. その原因遺伝子は長らく不明のままであったが, われわれは赤坂らが報告した日本人GDD家系を対象としてポジショナルクローニングをおこない, 2004年に原因遺伝子としてGDD1を同定した. 興味深いことに, GDD1は機能既知の遺伝子と全くホモロジーがない新規遺伝子であり, その遺伝子産物は未知の骨代謝制御機構において機能している可能性が高いと考えられる. 本稿では, GDDについて概説するとともに, GDD1に関するこれまでの知見を紹介したい.


1.GDDの疾患概念

  GDDは, 顎骨の骨性異形成症, 四肢の易骨折性, 長管骨骨幹部骨皮質の内骨膜性肥厚の三徴 (図1) により診断される, 常染色体優性の遺伝性骨疾患である. 本疾患は1969年に東京医科歯科大学の赤坂庸子博士らにより発見され, 家族性顎骨骨幹硬化症 (Gnathodiaphyseal sclerosis) という名称で最初に報告された (2). しかしその報告は国内の学会誌上でなされたため, この新しい遺伝病の発見は海外の研究者に知られることなくそのまま埋もれてしまう. 1985年, Levinらは本疾患と考えられる家系を独立に発見するが, 赤坂らの報告を知ることなく, 骨形成不全症の亜型 (Osteogenesis imperfecta with unusual skeletal lesions) として報告してしまう (3). これ以降, 本疾患はLevin型骨形成不全症として取り扱われるようになる. ところが2001年Riminucciらは本疾患の孤発症例を報告し, その考察のなかで, 本疾患では易骨折性以外に骨形成不全症の特徴がみられず, またその原因遺伝子であるⅠ型コラーゲンに異常が見つかっていないことから, 本疾患を骨形成不全症とみなすLevinらの報告に異議を唱えた. さらに赤坂らの報告を引用して, 本疾患が新規の遺伝性骨疾患であるとの立場を支持する一方, 本疾患における顎骨病変は病理学的には骨硬化ではなく骨性異形成症であり, 本疾患名を顎骨骨幹異形成症 (Gnathodiaphyseal dysplasia; GDD) に変更することを提唱した (4). こうした紆余曲折を経て, 現在のGDDという疾患概念が確立された.


2.原因遺伝子GDD1のポジショナルクローニング

  われわれは, 赤坂らが報告した日本人GDD家系 (図2) を対象としてゲノムワイド連鎖解析を行い, 2003年にその原因遺伝子を第11番染色体短腕の11p14.3-15.1領域にマップした (5). 候補領域内には8個の機能既知遺伝子がマップされており, これらすべてについて遺伝子変異を検索したが, 罹患者特異的な変異は認められなかった. 次に候補領域内の新規遺伝子を探索したところ, 全22エキソンからなる新規遺伝子を認め, 日本人家系において本遺伝子の変異を検索した結果, エキソン11に罹患者特異的なミスセンス変異 (Cys356Arg; TGT→CGT) が発見された. 興味深いことにアフリカ系アメリカ人GDD家系で本遺伝子を解析したところ, 同じCys356に新たなミスセンス変異 (Cys356Gly; TGT→GGT) が同定された. 遺伝的バックグラウンドの異なる2つのGDD家系において遺伝子変異が罹患者のみに認められ, さらに日本人コントロール488名およびアフリカ系アメリカ人コントロール80名に認められなかったことから, 本遺伝子がGDDの原因遺伝子であると結論し, GDD1と名付けて2004年に報告した (6).
  GDD1遺伝子は913アミノ酸からなる蛋白質をコードしており, 疎水性解析の結果, N端およびC端を細胞質内に置く8回膜貫通型蛋白質であることが予測された (図3). データベースの検索にて, GDD1ホモログがマウス、ゼブラフィッシュ、ハエ、および蚊において確認されるも, 他の機能既知遺伝子/蛋白質とのホモロジーは認められず, 特徴的な配列モチーフもなかった. すなわちGDD1遺伝子は新規の遺伝子ファミリーに属すると思われた. 興味深いことに, 予測トポロジーにおいて, 細胞外ループ上に位置する8個のシステイン残基 (342, 353, 356, 360, 369, 601, 606および 804番目) は種間で完全に保存されており, これらの機能的重要性が示唆された. 2つのGDD家系で同定されたミスセンス変異はいずれも保存されたシステイン残基のひとつであるCys356に生じており, 分子内のジスルフィド結合に異常をきたすなどして遺伝子産物の立体構造に何らかの影響を及ぼしている可能性がある.


3.GDD1の機能解析 (7,8)

  GDD1遺伝子にコードされる蛋白質の機能は不明である. そこで機能解析の第一歩として, マウスGDD1をクローニングし, その遺伝子産物の詳細な発現解析を行った. 発生過程におけるGDD1 mRNAの発現をin situ hybridization (ISH) 法にて解析した結果, E9.5-E11.5では骨格筋の前駆組織である筋節に発現が限局しているが, その後E12.5-E16.5では椎骨の前駆組織である硬節においても発現がみられるようになり, 筋・骨格系の発生・分化過程にGDD1が関与していることが示唆された. これに一致するように, 成体マウスの各臓器におけるGDD1 mRNAの発現量をノザンブロット法およびリアルタイムRT-PCR法にて解析したところ, 骨格筋および骨組織 (頭蓋冠, 大腿骨, 下顎骨) で高い発現が認められた (図4). さらに抗GDD1抗体を作製して成体マウスの大腿骨切片を免疫組織染色した結果, 内軟骨性骨化に関わる成長板肥大軟骨細胞, および骨梁表面を覆う骨芽細胞に強い発現がみられた (図5). 以上のように, GDD1遺伝子は骨形成に関わる細胞群で発現しており, その遺伝子変異に起因する骨形成異常がGDDの病態をつくりだしていると考えられる.
  次に抗GDD1抗体を用いて内在性GDD1蛋白質の生化学的解析を行った. われわれはこれまでにマウス筋芽細胞株 (L6, Sol8, C2C12) を筋管細胞に分化させるとGDD1 mRNAの発現が著明に増強することを見出している. そこで, 内在性GDD1蛋白質の細胞内局在を生化学的に検討すべく, 筋管細胞に分化させたL6細胞からホモジネートを調整して細胞分画を行い, 各画分に対し抗GDD1抗体および各種オルガネラマーカー蛋白質に対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った. 興味深いことに, GDD1蛋白質を含む画分はエンドソーム (マーカー: AP-3, adaptor protein complex-3) を含む画分とほぼ一致しており, 一部では形質膜 (マーカー: Na/K ATPase) を含む画分ともオーバーラップしていた. GDD1蛋白質は膜画分に存在しているが, アルカリや高濃度塩で処理しても可溶化できず, 界面活性剤によってはじめて可溶化できることから, 実際に膜貫通型蛋白質であると考えられる. さらに, GDD1蛋白質をPNGase-F処理するとそのバンドが低分子側へモビリティシフトするのに対し, Endo-H処理ではシフトが起きないことから, 内在性GDD1蛋白質は少なくともメディアルゴルジあるいはトランスゴルジにまで到達している成熟した糖蛋白質であることが示唆され, 上記の細胞内局在とも一致する. 以上の結果から, GDD1蛋白質がおもにエンドソームに存在する膜貫通型糖蛋白質であることは明らかになったものの, その生理機能は依然として不明のままであり, 今後GDD1結合蛋白質の同定およびノックアウトマウスの詳細な表現型解析を含めたさらなる解析が待たれる.


おわりに

  GDDという非常に稀な遺伝性骨疾患に着目することで, 新規骨代謝制御因子GDD1を発見したが, その機能に関しては解析がはじまったばかりで未知の部分が多い. しかしながら, GDD1は「既知の機能ドメインや機能配列モチーフがなく」, 「エンドソームおよび形質膜に存在する膜貫通型糖蛋白質である」という知見からは, 小胞輸送における役割や未知のリガンドに対するレセプターとしての役割などが想像され, 骨代謝の新たな一面を解き明かすkey moleculeになると考えている. 一方で, 最近ゲノム配列データベースの解析からGDD1遺伝子と相同性を有する遺伝子群が同定され, TMEM16ファミリーとして報告された(GDD1TMEM16Eに一致する). ヒトのTMEM16ファミリーはGDD1/TMEM16E を含めて10個の遺伝子からなるが, そのうちいくつかは様々な癌組織で過剰に発現していることから, 新たな疾患遺伝子群として本ファミリーに注目が集まっている (9). 今後GDD1研究がTMEM16ファミリーの機能解明にも貢献し, 新たなバイオロジーが展開されていくことを密かに期待している.

 

謝辞 本稿で紹介した研究は, 徳島大学疾患ゲノム研究センター病態ゲノム分野の板倉光夫教授, 井上寛助教授ならびに広島大学大学院医歯薬学総合研究科展開医科学専攻顎口腔頚部医科学講座の鎌田伸之教授, 水田邦子博士と共同で行われたものであり, ここに深謝いたします.



文献

1) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=166260

2) 赤坂庸子, 中島民雄, 小山弘治, 古屋光太郎, 三束雄一, 塩野正喜: 新しい系統的骨疾患, Hereditary gnatho-diaphyseal sclerosisの1家系例. (1969) 日本整形外科学会雑誌 43, 381-394

3) Levin LS, Wright JM, Byrd DL, Greenway G, Dorst JP, Irani RN, Pyeritz RE, Young RJ, and Laspia CL (1985) Osteogenesis imperfecta with unusual skeletal lesions: Report of three families. Am J Med Genet 21,257-269 PubMed

4) Riminucci M, Collins MT, Corsi A, Boyde A, Murphey MD, Wientroub S, Kuznetsov SA, Cherman N, Robey PG, and Bianco P: Gnathodiaphyseal dysplasia (2001) A syndrome of fibro-osseous lesions of jawbones, bone fragility, and long bone bowing. J Bone Miner Res 16, 1710-1718 PubMed

5) Tsutsumi S, Kamata N, Maruoka Y, Ando M, Tezuka O, Enomoto S, Omura K, Nagayama M, Kudo E, Moritani M, Yamaoka T, and Itakura M (2003) Autosomal dominant gnathodiaphyseal dysplasia maps to chromosome 11p14.3-15.1. J Bone Miner Res 18, 413-418 PubMed

6) Tsutsumi S, Kamata N, Vokes TJ, Maruoka Y, Nakakuki K, Enomoto S, Omura K, Amagasa T, Nagayama M, Saito-Ohara F, Inazawa J, Moritani M, Yamaoka T, Inoue H, and Itakura M (2004) The novel gene encoding a putative transmembrane protein is mutated in gnathodiaphyseal dysplasia (GDD). Am J Hum Genet 74, 1255-1261 PubMed

7) Tsutsumi S, Inoue H, Sakamoto Y, Mizuta K, Kamata N, and Itakura M (2005) Molecular cloning and characterization of the murine Gnathodiaphyseal Dysplasia gene GDD1. Biochem Biophys Res Commun 331, 1099-1106 PubMed

8) Mizuta K, Tsutsumi S, Inoue H, Sakamoto Y, Miyatake K, Miyawaki K, Noji S, Kamata N, and Itakura M (2007) Molecular characterization of GDD1/TMEM16E, the gene product responsible for autosomal dominant gnathodiaphyseal dysplasia. Biochem Biophys Res Commun 357, 126-132 PubMed

9) Galindo BE, and Vacquier VD (2005) Phylogeny of the TMEM16 protein family: some members are overexpressed in cancer. Int J Mol Med 16, 919-924 PubMed